[事例]
あるとき、デイサービスのご利用者Mさんの娘さんからクレームの電話が入りました。
「母がデイサービスで疥癬に感染した」と言うのです。
娘さんの話によると、Mさんが手の甲を掻いているので皮膚科を受診したところ、疥癬と診断された上、「デイサービスで感染したのだろう」と医師に言われたとのことでした。
デイサービスではほかに感染者は出ていないので、スタッフは「ほかの場所で感染したのではないでしょうか?」と答えました。
すると娘さんは、「感染症を隠ぺいするなんてとんでもない」と言って市に苦情を申し立てました。
クレームの原因と再発防止の対応
対応のポイント
【1】感染症のクレームに対しては、症状や医師の診断を聞き、ほかのご利用者への感染拡大の防止対策を優先する
このクレームがトラブルに発展した直接の原因は、スタッフが娘さんの主張を即座に否定してしまったことです。
あまり外出しないデイサービスのご利用者が感染症を発症すれば、ご家族はデイサービスでうつったのだろうと考えます。
医師でさえ「疥癬の感染経路は老人が集まる場所だ」と決めつけてしまうのですから、娘さんの主張は当然なのです。
感染症のクレームに対しては、まず「それは申し訳ありません。ほかのご利用者で感染者がいては大変ですから、すぐにお調べしてご報告いたします」とお答えすればトラブルになりません。
そして、疥癬が発生したことをほかのご利用者・ご家族に報告し、「痒みを訴えていたらすぐ受診して欲しい」と連絡します。
この時点でほかに発症者がいなければ、Mさんが最初の発症者であり、デイサービスは感染源ではないかもしれません。
娘さんには、「お調べしましたが、ほかのご利用者で発症した方はおりませんでした。早期の受診とご連絡をありがとうございました」と報告すれば良いでしょう。
しかし、なぜ娘さんはデイサービスの責任だと主張したのでしょうか?
このように感染症に対するご家族の意識が低いのは、デイサービスが感染防止対策をご家族と共有していないからなのです。
【2】平常時から感染防止対策をご家族と共有し、発症時の早期受診や迅速な連絡をお願いしておく
本事例のトラブルには、もう一つ大きな原因があります。
それは「感染症発生時の対応がルール化されていないこと」です。
まず、ご利用者の感染症発症の報告が遅れれば感染拡大につながりますから、施設内だけでなく平常時からご家族に対しても迅速な報告を依頼しておかなければなりません。
どのような感染症でどのような症状が出るのかを説明し、感染の疑いがあれば早期の受診とデイサービスへの連絡をお願いしておくのです。
このように、感染症発生時のご家族の協力を徹底し、感染拡大防止に対する意識を高めてもらえば、「デイサービスで感染させた」という責任追及はなくなります。
幼稚園や小学校も同じで、感染症は「誰のせいでうつったか」よりもほかの人に感染させないことが重要であり、その意味では皆同じ立場でありお互い様なのです。
【情報提供元】
月刊デイ
【ハラスメントなどのトラブル対応について学ぶ】