
なぜ今、福祉人材政策の再整理が必要なのか
介護・福祉分野における人材不足は、長年にわたり繰り返し指摘されてきた課題である。
しかし、現在直面している状況は、単なる「人が足りない」という問題を超え、制度そのものの持続可能性が問われる段階に入っている。
厚生労働省の推計では、介護職員数は2026年度に約240万人、2040年度には約272万人が必要とされている。
特に2040年頃にかけては、85歳以上人口の増加により、医療的ケアや重度化対応、認知症ケアなど、より高い専門性を要する支援が日常化すると見込まれている。
こうした将来見通しを背景に取りまとめられたのが、「福祉人材確保専門委員会における議論の整理」である。
本資料は、これまでの委員会での議論を総括し、今後の人材政策の方向性を示す重要な基礎文書と位置づけられる。
全国一律では立ち行かない…地域差を前提とした人材確保へ
報告書全体を通じて繰り返し示されている前提が、地域による人材確保状況の大きな差である。
有効求人倍率は全国的に高水準にあるものの、都市部と地方、中山間地域では、人材の集まり方や流動性が大きく異なる。
このため委員会では、都道府県を単位とした地域プラットフォーム機能の構築が重要な論点として整理された。
具体的には、都道府県、市町村、ハローワーク、福祉人材センター、事業者団体、教育機関などが連携し、
・地域の人材需給状況の可視化
・課題の分析と情報共有
・地域特性に応じた対策の立案
を行う枠組みを整える必要があるとされている。
ここで示されているのは、「人材確保を事業所努力に委ね続けることの限界」である。
特に小規模事業所や人材流入が見込みにくい地域では、地域全体で支える仕組みがなければ、事業継続そのものが困難になるという現実が背景にある。
多様な人材の確保と、定着を前提とした設計
人材確保の裾野を広げる観点から、報告書では多様な人材の参入が前提とされている。
若年層に限らず、中高年層、未経験者、他産業からの転職者、短時間就労を希望する人など、従来の採用枠では拾いきれてこなかった層をどう受け入れるかが問われている。
ただし、単に門戸を広げるだけでは、定着にはつながらない。
委員会では、
・介護業務の見える化
・業務の切り分け、役割整理
・段階的な研修・育成設計
といった点が重要な課題として整理されている。
「すべてを一度に担わせる」のではなく、できる役割から関わり、成長できる設計を行うことが、結果として人材の定着につながるという考え方である。
中核的介護人材の確保・育成という本質的論点
本報告書の中核をなすテーマの一つが、中核的介護人材の確保・育成である。
ここで想定されているのは、介護現場において指導・調整・実践を担う、介護福祉士を中心とした人材である。
資格制度や国家試験の在り方、養成課程の教育内容、キャリアアップの道筋などが整理され、単なる資格取得にとどまらず、現場でどのように機能しているかが問われている点が特徴的である。
また、資格を取得しながら現場を離れている「潜在介護福祉士」を、どのように把握し、再びつなぎ直すかという視点も示されている。
日本介護福祉士会・及川会長の発言が示す「政策の軸」
今回の委員会では、日本介護福祉士会の及川会長から、報告書の整理(案)に対する明確な意見が示された。
及川会長は、これまでの議論を踏まえたとりまとめとして基本的に異論はないとしたうえで、重要な論点を指摘している。
まず、介護福祉士資格に関する経過措置について、国民の介護に対する信頼を最優先すべきであり、経過措置は早期に終了させるべきだと強調した。
「受験しなくてもよい」制度ではなく、全員が受験する道筋を示すべきだという主張は、資格制度を緩め続けるのではなく、専門職としての信頼性を回復・強化すべきだという強いメッセージである。
また、准介護福祉士資格については、「廃止すべきではない」という意見が委員会内で一つもなかったことを踏まえ、廃止以外の選択肢は想定されないと明言している。
資格体系を整理し、専門性の軸を明確にする必要性が示された形だ。
「中核的役割」は実際に機能しているのか
さらに、日本介護福祉士会が実施したアンケート結果も重要な示唆を与えている。
調査では、介護福祉士が担う中核的な役割・機能が、業務分担表等に位置づけられているか、実際に誰が担っているかが確認された。
その結果、約3分の1の施設・事業所では、業務として位置づけがない、または不明という実態が明らかになった。
一方で、業務として明確に位置づけられている施設では、その役割を担っているのは、ほとんどが介護福祉士有資格者であった。
これは、役割の重要性は現場で認識されているにもかかわらず、制度的・組織的に明確化されていない現状を示している。
「人が足りない」から「どう支えるか」へ
本報告書と及川会長の発言から浮かび上がるのは、人材確保を「数の問題」として扱う段階は終わり、専門性・役割・制度の整合性をどう設計するかという段階に入ったという事実である。
事業者にとっても、「採れない」「続かない」という嘆きから一歩進み、自事業所がどの役割を担い、どの人材をどう育てるのかを主体的に考えることが、避けられないテーマになりつつある。
【情報提供元】
だよりね
【お役立ち研修】














