介護の現場に関わる多くの方が体感しているように
「介護をしている人ほど、自分の健康を後回しにしてしまう」
この現実が、科学的データとしても明らかになりました。
2024年に米国アルツハイマー協会(Alzheimer’s Association)が発表した報告書「Risk Factors for Cognitive Decline Among Dementia Caregivers(認知症介護者における認知機能低下のリスク因子)」では、認知症を抱える家族などのケアを担う人々が、自身も認知機能の低下リスクを高めているという衝撃的な実態が示されています。
この調査は、米国の疾病予防管理センター(CDC)が実施している「行動リスク因子サーベイランスシステム(BRFSS)」の2021~2022年データをもとに行われたものです。
47州以上から集められたデータによれば、認知症介護者は米国の一般成人に比べて、「高血圧」「糖尿病」「肥満」「身体的不活動」「喫煙」など、認知機能低下に直結する“修正可能な危険因子”を多く抱えていることが分かりました。
実際、介護者が抱えているこれらのリスク因子の数は、平均で4.0個。
一般成人の平均(3.5個)を大きく上回っています。
中でも特に多かったのは「高血圧(62.2%)」「身体的不活動(40.6%)」「肥満(36.9%)」という結果でした。
この背景には、介護のストレスによる健康行動の低下、通院・運動・睡眠時間の確保が困難になること、社会的孤立などが重なっていると分析されています。
さらに問題なのは、これらのリスクがそのまま、介護者自身の認知症リスクを高める要因にもなるという点です。
介護の負担が心身の健康を損ない、結果として自分も支援を必要とする側に…という悪循環に陥る可能性すらあるのです。
こうした現実を踏まえ、報告書では以下のような公衆衛生上のアクションが提言されています。
◆認知機能低下を防ぐための介護者支援のあり方(提言の一部)
・高血圧・肥満・喫煙などのリスクを減らす「慢性疾患予防プログラム」に介護者を対象としたアプローチを統合する
・介護者が地域で参加できる健康促進活動(ウォーキンググループ、食事相談、ストレスマネジメント)を増やす
・「健康な脳を守る」視点から、介護者にも認知症予防の情報提供を行う
・公衆衛生部門が、地域の実情に合わせた介護者支援戦略を立てる
このように、認知症の当事者支援と同様に介護者自身の健康や認知機能を守る視点が、今後の介護においても不可欠な要素であることが再認識されつつあります。
日本でも、家族介護者へのケアや支援体制はまだ十分とは言えない状況です。
制度や地域づくりの面でも、「介護する人を守ること」が結果として「より良いケアにつながる」ことを改めて見直す必要があるのではないでしょうか。
【情報提供元】
Alzheimer's Association. (2024). Risk Factors for Cognitive Decline Among Dementia Caregivers.
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