ケアを提供するに当たり、リスクを“ゼロ“にすることは基本的に不可能です。
さらに、認知症ケアにおいては、ケアを行う際に利用者の心身上の要因が重なりやすく、リスクの発生頻度がさらに高くなると言われています。
しかし、リスクを根絶することは不可能であっても、限りなくゼロに近づけることは不可能でないことも事実です。
そして、リスクをゼロに近づけるために不可欠なツール(道具)が「記録」なのです。
食行為におけるリスクと誤嚥について
皆さんは、認知症ケアでの“食“行為に関するリスクとして何を想起するでしょうか。
「誤嚥」「異食」「食中毒」に加えて、食事に関連する事項として「薬の誤配」なども挙げられるかもしれません。
それでは、認知症ケアの実践に当たり、この中で最も「リスクマネジメント」に留意しなければならないのはどれでしょうか。
ケアの現場において、利用者・サービス提供者それぞれにダメージが大きく、利用者の生命の危機に直結しやすいのは、何と言っても「誤嚥」です。
誤嚥は“食“に関する他のリスクに比べて表面化しやすく、インシデント(ヒヤリハット)報告書の件数も多いため、日常的に対処策が検討されています。
しかしその一方で、インシデント(ヒヤリハット)を飛び越え、突然、アクシデント(事故)として発生する場合も多く、それ故に重篤なケースになりやすく、訴訟にまで発展してしまうケースも多くあるのが実情です。
誤嚥事故は、発見者の初期対応が一歩遅れると、短時間で容易に窒息死に致ってしまうという最悪の事態を引き起こしかねません。
また、誤嚥性肺炎の誘因にもなり、その対応には徹底した「均質化」(すべての従事者による同じ対応)が求められます。そのためにも、適切な記録を残し、情報の共有化を図る必要があります。
情報共有の必要性
それでは誤嚥事故のリスクマネジメントとして、どのような“情報共有“が必要なのでしょうか?
まず第一に挙げられるのが「利用者の嚥下に関する情報」が共有されているかどうかです。
これはアセスメントの過程で、嚥下が「できる・できない」だけではなく、「むせ」はないのか、「いつまでも飲み込まず口の中にため込む」傾向はないのか、さらには食事の習慣として、「一度に口に詰め込む」または「短時間で焦って食べようとする」傾向がないのかなど、誤嚥の誘因となりそうなインシデントをすべて確認し、記録に残して共有されているかどうかが非常に重要です。
これらの事項が少しでも情報として挙げられている場合、誤嚥のリスクがあると考える必要があります。
誤嚥を要因とする訴訟においても「結果予見可能性」として争点になることも往々にしてあります。
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