
口腔ケアは「食べる」「話す」「表情をつくる」といった機能を支えるだけでなく、誤嚥性肺炎の予防や認知機能の維持にも直結する重要なケアです。
しかし現場では、「やるとは言うが実施しない」「興味を示さない」「痛みがあっても訴えない」といった理由により、口腔ケアが定着しないケースも多く見られます。
そんな“無関心タイプ”の方へのアプローチを、ある事例をもとに整理します。
事例:Aさんの場合
Aさんは自歯が多く残っていますが、口腔ケアへの関心が薄く、声を掛ければ「やる」と言うものの、実際には歯ブラシを数回口に入れるだけで終わってしまいます。
時々うがいをする程度で、自発的な清掃はほとんどありません。
ある日、食事中に酢の物を口にした際、痛そうな表情が見られました。
気になって口腔内を確認すると、頬の内側に傷ができていました。
口腔内の傷の原因は「虫歯で尖った歯」
歯科受診の結果、傷の原因は虫歯で鋭利になった歯でした。
尖った部分が頬粘膜を繰り返し噛んでしまい、痛みが強くなっていたことがわかりました。
治療を行い疼痛が落ち着いたところで、改めて口腔ケアの方法をAさんと一緒に検討することになりました。
無関心な人へのアプローチの基本
口腔ケアに主体的に取り組めない背景には「痛みや不快感」「ケアの必要性が理解できていない」「作業自体が面倒、または興味が湧かない」「認知機能の低下による手順理解の難しさ」など、さまざまな要因があります。
重要なのは、まずその「行わない理由」を丁寧に観察・分析し、できる環境づくりと安心できる支援を整えることです。
環境調整:集中しやすい場所に誘導するアプローチ
Aさんの場合は、食後必ず静かな洗面所に誘導しました。
テレビがついている部屋や他の利用者が多く行き交う場所では、注意が散漫になりやすく、ケアに意識が向きません。
特に認知症のある方やケアへのモチベーションが低い方にとって、環境要因は成功の可否を左右します。
静かで落ち着いた洗面所へ移動することは、ケアに集中するための第一歩です。
まずは「本人なりのセルフケア」を尊重するアプローチ
いきなり職員が磨くのではなく、Aさんが自分なりの方法で歯ブラシを持つところから始めました。
たとえ数回のブラッシングでも、自分で行うという行動が“ケアに参加している”という感覚につながり、協力度を高めます。
「少しでも自分でできることを尊重する」ことは、口腔ケアを習慣化するうえで重要な視点です。
仕上げ磨きは“丁寧な説明”と“安心の提供”というアプローチ
仕上げ磨きに入る前に、職員がAさんと目を合わせ、「今度は仕上げ磨きをします。痛みが良くなるように、きれいにしましょう」と説明しました。
何をされるかわからない状態では不安を引き起こし、拒否につながります。
説明して理解を得たうえで、職員が大きく口を開けて見せ、Aさんにマネしてもらうことで開口を促しました。
さらに、頬に手を添えて声を掛けながら行うことで、安心感と協力意欲が高まります。
同じ手順を継続する
Aさんにとって「毎回同じ流れで進むこと」は安心の源でした。
・静かな場所へ移動
・まずはセルフケア
・声かけと説明
・職員の見本→マネして開口
・仕上げ磨き
この流れを統一して続けた結果、Aさんは徐々に介助の口腔ケアに協力的になっていきました。
ケアを嫌がる人ほど予測可能性が重要であり、手順をルーティン化することは有効です。
「痛みへの配慮」が継続支援の鍵
今回の事例のように、口腔ケアを拒む背景には、実は痛みが潜んでいるケースが多くあります。
・虫歯
・歯周病
・入れ歯の不適合
・口内炎
・歯肉退縮による刺激
こうした痛みに気づかずケアを行うと「口腔ケア=痛い」という認識が強まり、ますます拒否が増えます。
丁寧な観察と歯科との連携は必須です。
まとめ
口腔ケアに無関心な人の支援には、技術だけでなく「環境調整」「安心できる関わり」「痛みへの配慮」「手順の一貫性」が欠かせません。
Aさんのように、興味が薄い方でも、生活の質の維持には口腔清潔が不可欠です。
本人のペースを尊重しながら、無理なく続けられる仕組みをチームでつくることが、ケアの定着につながります。
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