
令和7年度介護事業経営概況調査・処遇改善・基準費用額の議論が本格化
調査の概要と背景
2025年12月3日「第249回社会保障審議会介護給付費分科会」が開催され、令和7年度介護事業経営概況調査の結果報告、介護職員の処遇改善に向けた補正予算および令和8年度介護報酬改定に向けた議論、さらに基準費用額(食費)の見直しが主要テーマとして取り上げられました。
経営状況-収支差率と赤字割合-
収支差率および赤字事業所割合は以下のとおりです。
■収支差率(サービス類型別・一部抜粋)
・全サービス平均:(対前年度)0%/(令和5年度)4.7%/(令和6年度)4.7%
・介護老人福祉施設:(対前年度)+0.1%/1.3%→1.4%
・介護老人保健施設:(対前年度)+1.2%/-0.6%→0.6%
・訪問介護:(対前年度)-1.5%/11.1%→9.6%
・通所介護:(対前年度)-0.3%/6.5%→6.2%
・通所リハビリテーション:(対前年度)-0.4%/2.4%→2.0%
・地域密着型通所介護:(対前年度)+0.5%/5.8%→6.3%
■赤字事業所・黒字事業所割合
・全サービス平均:(赤字)37.5%/(黒字)62.5%
・介護老人福祉施設:(赤字)44.3%/(黒字)55.7%
・介護老人保健施設:(赤字)49.3%/(黒字)50.7%
・訪問介護:(赤字)35.1%/(黒字)64.9%
・通所介護:(赤字)37.4%/(黒字)62.6%
・通所リハビリ:(赤字)48.4%/(黒字)51.6%
・地域密着型通所介護:(赤字)37.2%/(黒字)62.8%
収支差率は全体では4.7%と横ばいとなっており、一見すると経営全体が安定しているように見えますが、サービス類型間の格差は顕著であると議論されました。
■赤字事業所の割合に関する指摘
全サービスの約37.5%が赤字で、黒字事業所は6割超ですが、経営悪化を示す領域は偏在していることが示されました。
委員からは、調査客体数の偏りや、特に訪問介護における高収支結果への疑義が挙げられ、より精緻な分析を求める意見が出されました。
■各委員の主な意見
・老健施設の経営環境は極めて厳しい。報酬本体の引上げは不可避。
・制度の持続性確保のため、メリハリある配分と改定率設定が必要。
・調査設計の不十分さを指摘、現場実態との乖離を懸念。
・訪問看護の収支差率は前年より1.6ポイント低下。
・小規模事業者ほど危機的。
平均値では捉えられない構造的課題が類型別に浮き彫りとなり、精度の高い議論が求められる局面となっています。
介護人材確保と処遇改善
厚生労働省が示した処遇改善案では、介護職員の賃上げ支援として以下の補正予算が提案されました。
■賃上げ支援の枠組み(補正予算案)
・介護従事者共通支援:月1.0万円/人
・生産性向上等に取り組む事業者への追加支援:月0.5万円/人
・職場環境改善支援:月0.4万円/人
対象範囲や支給方法の具体設計は今後の議論に委ねられており、令和8年度改定において「報酬本体で行うのか」「補助的支援とするのか」が主要論点となります。
■委員意見の主な論点
・居宅介護支援事業所ケアマネへの賃上げ支援を求める声。
・全産業平均との格差解消を目指すべき。
・特にホームヘルパー確保は危機的状況、早急な手当が不可欠。
・介護職給与は全産業平均より8万円以上低い、報酬本体対応が必須。
・利用者負担増が懸念され、公費投入も議論すべき。
基準費用額(食費)について
介護保険施設入所者の食費基準費用額の見直しも議論されました。
概況調査による平均食費は月額46,938円で、現行基準43,928円を約3,010円上回っています。
物価高騰が食事内容の質に影響しており、委員からは緊急性を指摘する意見が相次ぎました。
■主な意見
・基準費用額の引上げと物価スライド制導入を要望。
・急激な価格上昇を踏まえ、月170円程度の引上げが必要。
・低所得者への配慮は不可欠。
・物価高騰を踏まえ十分な手当を確保すべき。
・逆ざや状態が顕著であり、速やかな対応が必要。
今後の議論
・サービス類型ごとの収支差率の詳細分析
・訪問介護基本報酬引下げ影響の精緻分析
・賃上げおよび職場環境整備事業の迅速実施
・全介護従事者対象の処遇改善範囲検討
・介護テクノロジー導入支援の継続強化
・食費基準費用額の引上げ検討と低所得者配慮
・物価スライド制の導入検討
介護事業者が今取るべき視点
留意すべきポイントは次の3点です。
(1)事業類型間の収益格差は改定率配分に直結
→特に老健・訪問看護・通所系の議論に注視すること
(2)処遇改善制度設計次第で経営施策は大きく変動
→生産性向上、補助金活用、テクノロジー導入戦略が鍵
(3)基準費用額見直しは利用者負担と経営双方に影響
→説明責任と情報発信体制の準備が必要
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