
2025年12月25日、厚生労働省は「高齢者虐待防止法」に基づく令和6年度の調査結果を公表しました。
全国の市町村・都道府県が把握した高齢者虐待への対応状況をまとめたもので、介護・福祉の現場に関わる私たちにとって、決して軽く受け止めることのできない内容となっています。
今回の調査でまず注目されるのは、養介護施設従事者等による虐待が「過去最多」「4年連続で増加」しているという点です。
相談・通報件数は3,633件(前年度比5.6%増)、虐待と判断された件数は1,220件(同8.6%増)となり、いずれもこれまでで最も多い数字となりました。
「内部からの声」が増えているという事実
相談・通報者の内訳を見ると、最も多いのは当該施設の職員(27.4%)で、次いで管理者等(18.2%)、家族・親族(14.6%)が続いています。
この結果は、虐待が外部から突然指摘されるものというよりも、日々の業務の中で職員自身が違和感や不安を覚え、声を上げるケースが増えていることを示していると言えるでしょう。
虐待の内容としては、身体的虐待が51.1%と半数を超え、心理的虐待、介護等放棄(ネグレクト)が続いています。
また、発生要因として多く挙げられているのが、「職員の知識・意識の不足」(75.9%)、「倫理観・理念の欠如」(64.3%)、「ストレスや感情コントロールの問題」(62.5%)です。
これらの数字から見えてくるのは、虐待の多くが一部の特別な職員によるものではなく、教育や支援、組織体制が十分でない環境の中で起きているという現実です。
特養・有料老人ホームで続く高い発生割合
施設種別では、特別養護老人ホーム(28.9%)と有料老人ホーム(28.4%)が、ともに3割近くを占め、高い水準で推移しています。
特に有料老人ホームは、運営主体や体制が多様であることから、運営基準の遵守や職員教育のあり方が、あらためて問われている状況にあると言えるでしょう。
なお、養介護施設従事者等による虐待が関係した死亡事例も5件報告されており、虐待防止が「理念」や「努力目標」にとどまらない段階に来ていることがうかがえます。
家庭内での虐待も増え続けている
一方、家族などの養護者による高齢者虐待についても、相談・通報件数は41,814件と、12年連続で過去最多を更新しました。
虐待と判断された件数は17,133件と大きな増減はありませんが、通報ルートとして警察からの通報が最も多く(35.6%)なっている点が特徴的です。
背景には、認知症の症状の進行や介護疲れ、家族側の理解力の低下などがあり、介護サービスだけでは支えきれない家庭の限界が、通報という形で表面化しているとも考えられます。
事業者に求められる「形だけで終わらせない取り組み」
こうした調査結果を受け、厚生労働省は関係団体に対し、虐待防止や身体拘束の適正化が不十分な場合には報酬減算の対象となることを、あらためて周知しています。
今後は、再発事例の分析や改善計画書の検証、現場で参考となる具体的な取組事例も順次公表される予定です。
虐待防止においては、「マニュアルを整備しているか」「研修を実施したか」といった形式的な対応だけでは十分とは言えません。
職員が不安や疑問を口にできる職場か、管理者が日常的に現場の状況を把握できているか、組織として無理やストレスを抱え込ませていないか。
今回の調査結果は、そうした点を一度立ち止まって見直す必要性を、私たちに静かに問いかけています。
高齢者虐待は、もはや遠い世界の出来事ではありません。
「起きてから対応する」だけでなく、「発生しにくい環境をどうつくるか」を考えることが、いま介護現場に求められているのではないでしょうか。
【情報提供元】
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67817.html
【お役立ち研修】














