
2025年12月15日に開催された「第131回社会保障審議会介護保険部会」では、約1年にわたり積み重ねられてきた論点を整理した「介護保険制度の見直しに関する意見案(資料1)」と、「持続可能性の確保(資料2)」を中心に、取りまとめに向けた最終局面の議論が行われました。
今回の部会を貫くテーマは、「制度の持続可能性をどう確保するのか」「その過程で、現場や利用者への影響をどこまで許容するのか」この2つの軸を、どこで折り合いをつけるのかという点にありました。
【1】制度見直し意見案(資料1)
方向性は概ね共有、焦点は「制度の精度」へ
資料1では、介護保険制度全体の見直しの方向性について、これまでの議論を踏まえた整理が示されました。
委員からは大きな異論はなく、「方向性そのものについては概ね共有された」との認識が示されています。
特徴的なのは、介護保険財政の厳しさを前提条件として明確に位置づけた点です。
高齢化の進展と給付費の増大を背景に、現行制度の延長線上では持続が困難であるという認識が、意見案の土台としてはっきりと示されました。
また、「身寄りのない高齢者等」という表現を「頼れる身寄りがいない高齢者等」へ改めた点も象徴的です。
単なる家族の有無ではなく、実質的に支援を受けられるかどうかに焦点を当てる考え方が反映されています。
サービス提供体制では、特例介護サービスの新たな類型において、職員の賃金改善への取り組みを要件として明記。
深刻な人材不足を踏まえ、処遇改善を制度的に後押しする姿勢がより明確になりました。
さらに、有料老人ホームをめぐっては、登録制の導入や入居対象者の明確化・公表義務など、透明性確保に向けた規制強化の方向性が示されています。
加えて、登録制対象の入居者向けに、ケアプラン作成と生活相談を評価する新たな相談支援類型の創設が提案され、ケアマネジメントの在り方にも影響を与える可能性があります。
【2】持続可能性の確保(資料2)
利用者負担見直しが最大の焦点
資料2では、制度の持続可能性を確保するための具体策が整理されました。
最大の論点は、一定以上所得者の利用者負担の見直しです。
事務局からは、「能力に応じた負担」という考え方に基づき、
被保険者の上位約25~30%、年金収入等で230万~260万円程度とする案が提示されました。
同時に、
・月額7,000円の負担上限
・預貯金が一定額未満の場合の1割負担継続
といった緩和措置も示され、制度の持続性と生活実態への配慮の間で、意見が分かれました。
【3】要介護1・2の総合事業移管は「見送り」
現場の声が反映されるも、議論は継続
要介護1・2の訪問介護・通所介護を市町村の総合事業へ移管する案については、2027年度改正での実施を見送る方針が示されました。
在宅ケアの後退や、地域事業所の経営悪化、サービスの質低下への懸念が強く、現場の反対意見が一定程度反映された形です。
ただし、「第11期(2030年~)に向けた継続検討」と位置づけられており、将来的な再燃の余地は残されています。
【4】居宅介護支援事業所の管理者要件見直し
主任ケアマネジャーの役割整理が新たな論点に
今回の部会では、居宅介護支援事業所の管理者要件の見直しについても、今後検討していく方針が示されました。
厚生労働省は、次の制度改正に向けた議論を整理した報告書案の中で、主任ケアマネジャーの役割の明確化を打ち出しています。
報告書案では、主任ケアマネジャーが本来果たすべき役割として、
・質の高いケアマネジメント
・ケアマネジャーの育成・支援
が挙げられる一方で、現状では、事業所管理者としての労務・財務管理業務と、専門職としての役割が過度に重なっているという課題認識が示されました。
現在の運営基準では、居宅介護支援事業所の管理者は原則として主任ケアマネジャーとされていますが、2021年3月末時点で既に管理者だった主任以外のケアマネジャーについては、経過措置が設けられており、その期限は2027年3月末に迫っています。
厚労省は、この経過措置の存廃にとどまらず、
・事業所管理者と主任ケアマネジャーの位置づけ整理
・管理者要件そのものの見直し
を含めて検討を進める方針です。
2027年度の介護報酬改定に向け、来年中に介護給付費分科会で方向性を固める予定とされています。
これは、居宅介護支援事業所の運営体制や人材配置に直結する論点であり、今後の議論次第では、管理者像そのものが変わる可能性もあります。
【5】まとめ
今回の第131回介護保険部会では、
・制度見直しの大枠は概ね固まりつつある
・一方で、利用者負担、ケアマネジメント、居宅支援の体制など、現場に直結する論点は調整段階
であることが改めて浮き彫りになりました。
介護事業者にとっては、
・利用者負担見直しがサービス利用に与える影響
・有料老人ホームや相談支援を巡る制度変更
・主任ケアマネジャー、管理者要件の見直しが事業運営に与える影響
を、制度が「決まってから」ではなく、「議論の段階から」読み解き、備えることが求められる局面に入ったと言えるでしょう。
今回の部会は、その転換点を強く印象づける内容でした。
【情報提供元】
第131回社会保障審議会介護保険部会
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67187.html
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