
2025年12月12日、「第250回 社会保障審議会 介護給付費分科会」が開催されました。
本分科会では、令和7年度補正予算に基づく6か月間の賃上げ措置、令和8年6月に予定される臨時改定(期中改定)、そして改定検証調査(医療連携)の速報が議題となりました。
今回の最大の争点は、「補正予算で実施される6か月の賃上げが、6月以降も切れ目なく継続するのか」という点です。
事業者にとっては、給与水準の決定、財務計画、人材定着戦略に直結する極めて重要な論点となります。
【1】補正予算の6か月賃上げはあくまで臨時措置
令和7年12月〜令和8年5月が対象となっており、恒久化は明言されていません。
これは緊急的な人材確保策として位置づけられ、恒久措置であるとは明言されていません。
一方、事業者にとっては「6か月限定」の賃上げは給与制度上の扱いが難しく、職員への説明責任も伴うという不安定さを緩和するために示されたのが、次の議論でした。
【2】令和8年6月施行の“期中改定”で処遇改善を拡充
補正予算→令和8年臨時改定→令和9年度本改定という「連続型賃上げ」を意識した構造になっています。
厚労省は、補正予算で実施した賃上げが途切れないよう、令和8年6月に臨時の処遇改善改定(期中改定)を実施する案を提示しました。
これは、補正予算の支援期間(令和7年12月〜令和8年5月)と処遇改善加算の拡充時期をつなぎ、賃上げを連続性のある制度として扱う狙いがあります。
ただし、以下の具体的な数値までは明示されませんでした。
・補正予算と同水準の賃上げを維持するか
・加算率はどうなるか
・訪問・居宅系の拡大分をどう扱うか
【3】処遇改善加算の対象拡大
介護職員以外の介護従事者を新たに対象にすることが示され、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援などまで拡大されます。
背景には、ケアマネジャーの高齢化・深刻な担い手不足・職種間の処遇格差などが挙げられており、事業者には処遇改善の仕組みが「介護職員中心」から「全介護従事者」に広がる転換点となります。
【4】算定要件に「生産性向上」を明確に義務づけICT化・データ連携は避けられない構造へ
処遇改善加算の算定要件として、以下の取り組みを義務化する案が示されました。
[施設・居住系]
・生産性向上推進体制加算の取得を必須化
[訪問・通所系]
・ケアプランデータ連携システムの導入
つまり、「処遇改善を算定するならICT化は必須」という構造が制度化されることになります。
小規模事業者向けの簡易仕組みも検討されていますが、業務効率化・標準化への要求が一段と強まっています。
【5】委員意見:賃上げの必要性と、基金活用・利用者負担への懸念
委員からは以下の主張が相次ぎました。
・利用者負担増によりサービス利用控えが起きる懸念
・介護給付費準備基金の取り崩しを前提とすることへの疑問
・訪問介護の倒産が続く現状と、報酬水準の見直し要望
・ケアマネ不足に対する迅速な処遇改善の必要性
・生産性向上は利用者メリットも示すべき
・看護職員の処遇改善は妥当だが、財源は公費も検討すべき
賃上げの必要性にはほぼ共通認識がある一方で、財源構造・利用者負担増・制度運用への慎重な意見が目立ちました。
【6】改定検証調査(医療連携)の速報:義務化サービスでも連携不十分が顕在化
医療連携に関する調査速報では、協力医療機関との連携が十分に整っていないサービスが地域によって散見される結果となりました。
[義務化サービスの連携状況]
・特養:67.9%
・老健:83.3%
・介護医療院:84.9%
・養護老人ホーム:60.4%
[努力義務サービス]
・軽費老人ホーム:59.5%
・特定施設:73.6%
・グループホーム:64.2%
委員からは「連携体制が未整備の場合、指定取消の可能性もある」と強い指摘があり、事業者にとっては早急な体制整備が必要となります。
【7】事業者が今後とるべき実務対応
今回の議論を踏まえ、優先順位の高い実務対応を考えてみましたので参考としてみてください。
(1)6月改定を見据えた給与制度の見直し
→複数シナリオで給与水準を設計
→新対象サービス・職種の処遇改善方針づくり
(2)ICT導入と生産性向上計画の整備
→ケアプランデータ連携の事前準備
→生産性向上加算の算定準備
→業務の棚卸しと標準化
(3)医療連携体制の再確認
→協力医療機関との契約状況のチェック
→届出漏れの確認
(4)利用者・家族への説明体制の整備
→利用者負担への影響
→令和8年6月改定に伴う変更点の説明
【8】まとめ:処遇改善は「対象拡大」+「要件強化」+「継続性の確認」が鍵
今回の分科会で浮かび上がった潮流は次の三点です。
・補正予算 → 6月改定 → 9年度本改定と“連続性のある賃上げ”の設計
・処遇改善の対象を介護職員以外へ大幅に拡大
・「ICT化」「生産性向上」を義務的に組み込む制度設計
最大の焦点である「補正予算の賃上げが6月以降も維持されるのか」については、方向性こそ示されたものの、具体的な水準は次回以降の議論に委ねられています。
いずれにしても、令和8年度は臨時改定に伴う制度変更が短期間で重なる可能性があります。
事業者は、給与制度・ICT導入・体制整備を同時並行で今から進める準備をしておくのが望ましいでしょう。
【情報提供元】
第250回社会保障審議会介護給付費分科会
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_66848.html
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