「ウチの管理者は、何を考えているのか分からない」
介護・医療・福祉の現場では、こうした言葉が職員同士の会話の中で語られることがあります。
直接本人に向けて言われることは少なくても、現場の空気として漂っているケースは決して珍しくありません。
この言葉は、単なる不満や愚痴ではありません。裏を返せば、職員はこう感じているのです。
「この組織には、判断の軸が見えない」
組織は「人が集まれば自然に回る」ものではない
デイサービスや病棟、事業所は、日々の業務が流れるように進んでいるため、つい「何となく回っている組織」に見えてしまいます。
しかし、組織とは本来、二人以上の人が、共通の目的をもって動く集団です。
人が複数集まれば、必ず起こるのが認識のズレです。
・「良かれと思ってやった支援」が、別の職員には過剰に見える
・「利用者の自立を尊重したつもり」が、放置と受け取られる
・「忙しいから省略した対応」が、質の低下だと指摘される
こうしたズレは、能力不足や性格の問題ではありません。
判断基準が共有されていないことが原因です。
自己流が増えるほど、現場は不安定になる
「それぞれのやり方を尊重したい」
「現場の裁量に任せたい」
管理者として、そう考える気持ちは自然です。
しかし、自己流が積み重なると、現場には必ず歪みが生まれます。
・発言力が強い職員、発言頻度の高い職員、相手に考える余地を与えない話法の職員、立場や経験を強調しがちな職員のやり方が標準になる
・注意されない行動が「暗黙のルール」になる
・真面目な職員ほど迷い、疲弊する
・結果として、頑張っている人ほど去り、問題行動が残る
という状態に陥ります。
これは決して珍しい話ではありません。
管理者が避けて通れない仕事…「これはダメ」「これはOK」を決めること
現場が不安定なとき、「人が足りないから」「忙しすぎるから」と理由を探しがちです。
もちろん、それらも要因の一つです。
しかし、どんなに人手不足でも、現場が比較的落ち着いている事業所には共通点があります。
管理者が、禁止と許可をはっきり出しているという点です。
「禁止」を出さない管理は、現場を荒らす
禁止とは、「やってはいけないこと」を明確に伝えることです。
・その言葉遣いは認めない
・その態度は利用者本位ではない
・その身だしなみは職業人として不適切
・その判断はルール違反
・遅刻や無断欠勤は許容しない
・ハラスメントは一切認めない
これらを、書面でも、口頭でも、態度でも示し続けることが求められます。
「言わなくても分かるだろう」
「大人なんだから」
「今さら注意するのも気まずい」
そう思って何も言わないことは、現場を守ることにはなりません。
禁止を出さない現場ほど、基準が曖昧になり、職員同士が消耗します。
禁止は、やる気のある職員を守るためにある
厳しくすると人が辞めるのではないか、という不安を抱く管理者は少なくありません。
しかし実際には逆です。
・何がダメなのか分からない
・誰も注意しない
・不公平に感じる
こうした環境のほうが、真面目な職員は早く離れていきます。
禁止を明確にすることは、頑張っている人を守る行為でもあるのです。
「許可」を出せない管理者は、信頼を失う
一方で、禁止だけの管理も組織を疲弊させます。
そこで必要になるのが「許可」です。
許可とは、単に甘やかすことではありません。
・よくやっている、と伝える
・任せても大丈夫だと示す
・失敗を責めず、次につなげる
・成長を待つ
・努力を認める
職員は、「どこまでやっていいのか」「自分の判断は合っているのか」を常に管理者の反応から読み取っています。
許可が出ない組織では、指示待ちが増え、主体性は育ちません。
禁止と許可を支えるのは「基準」
では、どうすれば禁止と許可を適切に出せるのでしょうか。
鍵になるのが、管理者自身の判断基準です。
・この現場で大切にしたい価値観は何か
・利用者にとって「良いケア」とは何か
・職員にどんな姿勢を求めるのか
これを言葉にする作業は、簡単ではありません。
時間もかかりますし、孤独な作業になります。
しかし、この基準が明確になるほど「注意が感情論にならない」「説明に一貫性が生まれる」「職員が納得して動ける」ようになります。
管理者の仕事は、現場を「安心して働ける場」にすること
管理者の役割は、現場を引っ張るヒーローになることでも、すべてを自分で背負うことでもありません。
判断基準を示し、禁止と許可を出し続けること。
それによって、職員は迷わず動けるようになり、組織は安定し、結果として利用者への支援の質も高まります。
地味で、評価されにくい仕事ですが、これこそが管理者にしかできない役割です。
【お役立ち研修】
