2025年12月15日に開催された「社会保障審議会（福祉部会）」では、 2040年を見据えた地域共生社会の在り方について、報告書案の最終的な取りまとめに向けた議論が行われました。
高齢者、障害者、子ども・若者、身寄りのない人など、制度ごとに分断されがちだった福祉課題を、「包括的な支援体制」として再構築する方向性を明確にしています。
その中で、介護分野は単なる一領域ではなく、地域共生社会を支える中核的インフラとして位置づけられている点が、今回の議論の大きな特徴です。
要介護者増加と自治体縮小が同時進行する2040年
委員からは、2040年に向けて「要医療・要介護者は確実に増える一方、基礎自治体の人口は半減する」という現実が繰り返し指摘されました。
この構造的変化の中で、介護はもはや介護保険サービスの枠だけで完結するものではなくなってきています。
・身寄りがあっても頼れない高齢者
・医療・介護・生活支援が複雑に絡むケース
・ヤングケアラーや地域住民へのしわ寄せ
こうした課題に対し、介護事業所や介護職員が「最後の受け皿」として抱え込む限界は明白です。
報告書案では、市町村が責務をもって包括的支援体制を構築することが明確に示され、介護現場の孤立を防ぐ制度的な土台づくりが強調されました。
「身寄りのない高齢者」から「頼れる身寄りがいない高齢者」へ
今回の報告書案で象徴的なのが、用語の見直しです。
従来の「身寄りのない高齢者」ではなく、「頼れる身寄りがいない高齢者等」という表現に統一されました。
これは、
・親族がいても関係が断絶している
・家族に支援を求められない
・結果として介護・生活支援が宙に浮く
といった、介護現場が日常的に直面している実態を制度上も正面から捉え直したものです。
同時に、こうした支援を新たな事業として制度化する動きに対しては、
・既存の日常生活自立支援事業（社協事業）との関係
・財政負担の所在
・現場混乱への懸念
といった慎重論も示され、今後の具体化に向けては、介護・福祉現場の実践知を十分に踏まえる必要性が強調されました。
介護人材問題は「数」ではなく「構造」の問題へ
報告書後半の大きな柱が、介護人材の確保・育成・定着です。
ここでは単なる人手不足対策ではなく、人材の在り方そのものの再設計が論点となりました。
特に注目されたのが以下の点です。
•日本人の介護離れが進む中、養成校では留学生が過半を占める現実
•国家資格の信頼性をどう守るかという議論
•介護・保育・障害・地域福祉を横断できる人材像の必要性
複数の委員から、「介護の専門性とは何か」という根源的な問いが投げかけられました。
単一業務の熟練ではなく、ソーシャルワークを土台にした多機能人材こそが、これからの介護現場に求められる専門性であるという認識が共有されつつあります。
災害時、介護は“後回し”にされない体制へ
能登半島地震などを踏まえ、災害時の福祉的支援体制も重要な論点となりました。
DWAT（災害派遣福祉チーム）の活用については、
・自治体内での理解不足
・防災部門と福祉部門の分断
・介護職の専門性が十分に生かされない現場
といった課題が指摘されました。
報告書案では、平時からの連携構築と研修体制の整備が明記され、災害時にも介護が機能する地域づくりが強調されています。
介護は「制度の中」から「地域の中」へ
報告書の締めくくりでは、社会福祉法制定時からの社会構造の変化に触れながら、「制度だけでは支えきれない時代」における地域づくりの重要性が改めて示されました。
介護は、
・高齢者だけのものではない
・サービス提供だけの仕事でもない
・一事業所で完結する役割でもない
地域共生社会の中で、人と人をつなぐ基盤機能として再定義されつつあります。
本報告書は、その方向性を示す「完成形」ではなく、介護と地域の関係を再構築するための出発点と言えるのではないでしょうか。
【情報提供元】
社会保障審議会（福祉部会）
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67170.html
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