概要
2025年に入り、大阪府内の特別養護老人ホームにおいて入浴介助中の高温湯による死亡事故が相次いで発生しています。
また、同時期には滋賀県および埼玉県で介護職員による利用者殺傷事件が発生しており、介護現場における安全管理体制および職員のメンタルヘルス管理が改めて問われています。
入浴介助における熱傷死亡事故(大阪府)
(1)事案A:湯温設定ミスによる死亡事故(大阪市生野区)
2025年8月に大阪市生野区の特別養護老人ホームにおいて、入所中の90代女性が入浴介助中に60℃の湯に浸かり、全身熱傷を負い約1か月後に死亡しました。
当該施設では通常40℃に設定しているが、浴槽の熱湯消毒後に湯温を戻し忘れていたことが原因とされています。
介助職員は単独で対応しており、湯温確認工程の欠落が確認されました。
(2)事案B:意図的ストッパー解除による死亡事故(大阪市東成区)
同年6月には別施設で、70代男性を高温の湯に浸からせ死亡させたとして、介護福祉士が傷害致死容疑で逮捕されました。
施設には湯温上限(45℃)のストッパー機能が設けられていましたが、当該職員が解除し、50℃以上の湯に数分間浸けたとされています。
事件性を伴う重篤事案です。
要因分析
ヒューマンエラーによる要因
→確認手順の省略、温度管理不備
システム・マネジメント要因
→設備インターロック機能の欠如
→教育・研修不足、再発防止マニュアルの形骸化
再発防止策
・入浴設備の自動温度制御機構の強化(上限温度ロック機能・二重確認システムなど)
・介助時の複数職員による確認ルール化
・湯温チェックの記録化・ログ管理
・事故発生時の初動報告フローの標準化
介護職員による殺傷事件(滋賀・埼玉)
(1)滋賀県東近江市:殺人予備・銃刀法違反容疑
70歳職員が入所者殺害目的で刃物を持ち込み逮捕されました。
殺意をほのめかす発言が事前に確認されており、リスクサインの見逃しが課題とされています。
(2)埼玉県鶴ヶ島市:「若葉ナーシングホーム」2名殺害事件
元職員(22歳)が夜間に侵入し、入所者2名を絞殺・刺殺しました。
精神的不安定性、退職後の恨みなどが動機として指摘されています。
分析と課題
人事・採用管理面
適性評価、勤務履歴管理の重要性
メンタルヘルス対策
形式だけではない定期ストレスチェック・外部カウンセリング導入
防犯体制
夜勤時の監視・入退室ログの導入
本年の複数事案は、いずれも「普通に考えれば起こり得ない」事象です。
もちろん「個人の過失」部分が強いですが、システム的安全管理の欠如と捉えるべきでもあります。
介護サービスを提供する事業者は、事故・事件を「他所事」「想定外」とせず、自事業所でも起こり得るリスクとして、教育体制を整えることが急務なのではないでしょうか。
【お役立ち研修】