誤薬事故後の経過観察中、静養室のベッドから落ちて大腿骨を骨折
利用者Aさん(80歳女性、要介護3)は、軽度の認知症があり、週2回デイサービスを利用しています。
利き手側に半身麻痺があるため、うまく手が使えず、食事と服薬は介助が必要です。
ある日の昼食時、職員のシゲルさんが当日の利用者の薬を保管している箱から薬袋を取り出し、Aさんの服薬介助を行いました。
その後、ほかの職員が利用者Bさんの薬を取り出そうとしたとき、Bさんの薬がないことに気付き、「Bさんの薬がありません。みなさん、服薬内容をチェックしてください」と大声で呼びかけました。
シゲルさんがAさんの飲んだ薬袋を確認したところ、Bさんの名前が記載されており、AさんにBさんの薬を誤薬していたことが分かりました。
Bさん(78歳男性)は重度の認知症で、抗認知症薬と抗精神病薬を処方されており、Aさんは誤ってこれらを服薬していました。
看護師は「取りあえず様子を見ましょう」と言って30分ほど経過観察しましたが、体調に変化がなかったため、Aさん本人の薬を服用してもらい、しばらく静養室で休んでもらうことにしました。
Aさんはずっとウトウトしていましたが、1時間ほど経過したころ、静養室で大声が聞こえました。
急いでシゲルさんが駆け付けると、Aさんがベッドから落ちて大声で叫びながら暴れています。
Aさんはすぐに救急搬送され、病院で大腿骨の骨折と診断されました。
誤薬したことを知った医師は、「抗精神病薬を誤薬したことにより、せん妄が出てベッドから転落したのでしょう」と家族に説明しました。
どんな薬でも「経過観察」と判断してはいけない
デイサービスなどで誤薬事故が起きたとき、すぐ受診せずに看護師が「経過観察」と判断するケースも多いですが、薬が利用者の身体に与える影響を軽く考えてはいけません。
まれに、間違えて飲んだ薬と本人の薬の相互作用(併用禁忌など)によって、死亡事故に至るケースもあります。
誤薬が死亡事故につながれば、最悪の場合、経過観察と判断した看護師は業務上過失致死罪で刑事告訴される可能性もあるため、誤薬してしまったときは、必ず受診しなければなりません。
そして、誤薬した後に注意しなければならないのが、本事例のような「誤薬により間接的に発生するリスク」です。
例えば、利尿剤を服用すれば、口内が乾いて誤えんが起こるかもしれませんし、脱水でふらつくかもしれません。
Aさんの場合、医師が家族に説明したように、重度の認知症の人が飲んでいた抗精神病薬の影響でせん妄が出て、転倒した可能性があります。
このように、誤薬から間接的に発生する事故のリスクは多様であり、中でも最も多いのが転倒事故です。
本事例のように、認知症の利用者の場合、抗精神病薬や抗認知症薬など精神に強い影響を与える薬もありますから、経過観察とせず、迅速に受診させなければならなかったのです。
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