地域包括ケア・医療連携・持続可能性の三本柱で制度改革を議論
厚生労働省の「第125回社会保障審議会 介護保険部会」が2025年9月29日開催され、介護保険制度の次期事業・支援計画に向けた議論が本格化した。
焦点は、地域包括ケア体制の整備、医療・介護の連携強化、制度の持続可能性確保の三点。
さらに令和7年度税制改正に伴う保険料影響の暫定措置も了承され、現場への影響を最小化する方針が示された。
地域包括ケアの強化…2040年を見据えた体制整備
部会ではまず、市町村と都道府県が担う地域包括ケアの中長期的な整備が議題となった。
現行制度では、市町村が3年ごとの計画で介護サービス見込み量を設定し、保険料に反映させる。一方で都道府県は広域的視点で支援計画を策定するが、計画に記載される中長期推計にはばらつきがあるのが実情だ。
出席者からは「2040年を見据え、単年度の需要予測だけでなく、時間軸・地域軸双方でサービス提供体制を明確にする必要がある」との声が上がった。
特に中山間地域や人口減少地域では、事業所や人材が限られるため、地域実情に応じた柔軟なサービス提供体制の維持策が不可欠とされる。
また、認知症や軽度認知障害(MCI)の将来推計、在宅介護での提供断念件数、生活支援事業者の取り組み状況など、現場実態を反映したデータ整備の必要性も指摘された。
部会では、市町村の中長期推計記載の明確化と、都道府県による情報提供・助言、広域的議論の場の設置を推進する方向で合意が得られた。
医療・介護連携の深化…高齢化対応と地域課題の共有
医療と介護の連携強化も大きな論点となった。
高齢者のうち85歳以上人口が増加するなか、複合的な医療・介護ニーズが急増する見込みだ。
これに伴い、受け皿の確保と連携体制の強化が不可欠である。
部会では、介護施設と協力医療機関の連携状況や、老人福祉圏域単位の協議体設置状況に地域差があることが共有された。
事務局は、当初第11期からの設置を予定していた広域的協議の場を第10期(2027~2029年度)から前倒しで開始する方針を示し、実効性確保に向けた早期対応を図る。
委員からは、協議体には当事者や職能団体、事業者団体が幅広く参画することが望ましいとの意見が相次いだ。
議題としては、急変時の入院調整や介護・医療情報の共有、入退院支援の切れ目ない体制の構築など、現場実務に即したテーマが挙げられた。
制度の持続可能性…給付と負担の見直し
制度の財政・運営面においても、持続可能性は喫緊の課題だ。
部会では、利用者負担の判断基準(2割・3割)の見直し、ケアマネジメント給付の堅持、軽度者への生活援助、被保険者・受給者範囲、公費投入の在り方が議論された。
利用者負担については、「負担拡大は利用控えや重度化を招き、結果として総費用の増加につながる」との慎重論が多数を占めた。
金融資産や年金水準など生活実態を踏まえた総合判断や、低所得者への配慮として0.5割・0.3割などの選択肢を検討する案も提示された。
ケアマネジメント給付の自己負担導入に関しては、「中立性を損ない、利用控えや重度化を招く」との強い反対意見が出された。
さらに要介護1・2の生活援助の総合事業への移行についても、「現状では整備途上であり、自立支援どころか重度化リスクを高める」との懸念が示された。
総合事業の現状評価と、専門職育成のための後方支援策を整備したうえで移行を進める必要があるとの指摘があった。
税制改正と保険料の暫定対応
令和7年度の税制改正で、住民税の旧所得控除最低保障額が50万円から65万円に引き上げられる。
これにより合計所得金額が変動し、令和8年度の第1号保険料に想定外の負担が生じる恐れがあることから、部会は令和7年度と同水準の保険料を適用する暫定措置を了承した。
今後の課題と展望
今回の部会で浮き彫りになったのは、制度持続性の核心が「人材確保」と「財源投入」にあるという点だ。
介護職の低処遇や赤字運営による他産業への流出は、制度の根幹を揺るがすリスクとされる。
次回以降は、総合事業の現状データ提示、利用者負担見直しの影響評価、医療・介護連携の協議体運用設計、認知症・MCI推計データの整備など、具体的検討が予定されている。
関係者からは、「地域格差を生まない提供体制の確保」「現役世代の負担抑制と改革の両立」「ケアマネ10割給付の堅持」など、現場・経済・行政それぞれの立場から具体的要望が示された。
厚労省は、2040年を見据えた介護保険制度の持続可能性確保に向け、地域実態を反映した計画策定と、医療・介護連携強化の両輪で改革を進める構えだ。
【情報提供元】
第125回社会保障審議会 介護保険部会
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_64004.html
【お役立ち研修】
医療・介護の現場で活かせる実践的リハビリ評価&介入セミナー
第23回日本通所ケア研究大会
https://tsuusho.com/conference/