デイサービスの利用者Mさん(81歳・男性)は、重い認知症がありますが、嚥下機能に障害はなく、普通食を自力で摂取しています。
ある日Mさんは、昼食に出された肉団子を丸のみして喉に詰まらせてしまいました。
すぐに看護師が吸引を行いましたが、喉の奥に詰まった肉団子は除去できず、救急車で搬送されましたが病院で亡くなりました。
病院に駆けつけて来た息子さんに対して、デイサービスの所長は「お父様は嚥下機能も正常で、介護計画書でも『普通食』となっています。
今回は偶発的な事故であり、デイサービスに落ち度はないと考えます」と説明しました。
しかし、息子さんは「父が死んだというのに、無責任な態度だ」と憤慨し、後日訴訟となりました。
事故後の対応のポイント
■事故直後に「施設側に過失はない」と説明してはいけない
重大事故の直後に、「施設に過失はない」と説明してはいけません。
事故で救急搬送され、病院に駆けつけたご家族は大変神経質になっていますから、そこで施設の責任を否定する発言をすれば、無責任な態度と受け取られご家族の感情を害します。
実際の過失の有無は別にして、こうした重要な場面でご家族の感情をひどく害すると、取り返しがつかなくなり必ず大きなトラブルへと発展するのです。
そのため、事故直後に説明することをあらかじめ決めておくと良いでしょう。
まず、過失の問題についてご家族に説明しても良いのは、施設の過失が明らかな場合のみと心得ましょう。
施設の過失が明らかであれば、当然、管理者の謝罪が必要になりますし、謝罪しなければご家族の感情を害することになるからです。
では、事故直後にご家族から施設の落ち度を追及されたときは、どのように対応したら良いのでしょうか?
事故後のご家族への説明は、どのようにすればトラブルを回避できるのでしょうか?
重大事故が発生した場合の、事故直後のご家族への説明
[1]容態の説明
どのような容態であるか、生命の危険など、医師からの容態説明を分かりやすく説明。
[2]治癒の見込みなど
治癒の見込みや後遺障害、介護の悪化など、事故によって発生する今後の課題について説明。
[3]事故状況
事故発見時、事故発生時の状況を説明。事実の説明のみに留め、原因や施設の過失などについては、後日改めて正式な説明を行う旨を伝える。
「現時点では、詳しい事故状況や原因・施設の過失などが判明していません。きちんと調査し、その結果は改めて正式に説明をさせていただきます。1週間ほどお時間をいただけますか?」と付け加える。
今後、施設が責任を持った事故対応を行うことをきちんと伝えることが大切。
[4]事故状況の検証
目撃者がおらず本人が認知症のケースなど、事故状況が判明していない場合は、後日、事故状況の検証を行い説明する旨を伝える。
[5]謝罪の言葉は必要
「賠償責任を認めたことになるので謝罪をしてはならない」という人もいるが、事故により利用者に苦痛を与え、ご家族にも心配させたことについて、謝罪の言葉をかけるのは当たり前のこと。
謝罪の言葉が無いことでトラブルになる例は多い。
謝罪の際は、「この度は◯◯様に痛い思いをさせ、またご家族にもご心配をおかけして申し訳ございません」との言葉をかける。
過失の判断を間違えると大きなトラブルになる
事故直後には「事故発生状況と事故への対応状況」をしっかり説明し、そのほかの説明は後日正式行うと話せばご家族も安心してくれます。
では、事故の過失の有無はどのように判断すれば良いのでしょうか?
正式な説明で施設の過失の判断を誤れば、やはりトラブルに発展します。
施設側の過失があるにもかかわらず「施設の過失はない」と説明すれば、苦情申立や最悪の場合、訴訟を起こされるかもしれません。
逆に、過失がないにもかかわらず「施設の過失です」と説明してしまえば、施設が支払った賠償責任は保険会社から支払われず、大きな痛手となります。
一般的に交通事故などに比べて、介護事故の過失の判断は難しいと考えられています。
判例が少なく介護事故について詳しい弁護士が少ないことが、その理由です。
重大事故が起きたら、損害保険会社の無料法律相談などを利用するなど、慎重に対応しなければなりません。
本事例では、裁判所から届いた訴状に、次のような原告の主張が記載されていました。
「認知症の利用者の誤嚥のリスクは、嚥下機能の障害ではなく、認知機能の低下により安全な食べ方ができなくなることであり、典型的な危険な食べ方は“早食い”“詰め込み”“丸のみ”である。
よって、直径3㎝の肉団子を切り分けもせずに提供したことに、施設の過失がある」。
デイサービス側の弁護士は、相手の主張を認め、裁判所に調停を求めて賠償金を支払うことで解決しました。
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