「コミュニケーション」は、私たちが日常生活を営む上で重要な生命活動の一つです。
中度認知症から重度認知症の人の場合、「言葉を理解する能力(言語理解)」と「言葉を話す能力(言語表出)」が苦手になることでストレスや不安を抱え込み、行動や心理状態が不安定になってしまいます。
「不安→不満→不信→不穏」の流れは、「心理的な孤独状態」をつくり、さらなる症状の悪化につながってしまうので、「安堵→安心→安定→安楽」といった流れになるように、瞬間、瞬間のかかわりの中で「安堵できる」ように支援していくケアを目指しましょう。
【ポイント】
・「コミュニケーションが難しい人」というレッテルを外す
・効果的な言語的コミュニケーション/非言語的コミュニケーションの活用
・フェイス・コミュニケーションを活用する
・日常生活の場面ごとのジェスチャー&声かけ
「コミュニケーションが難しい人」というレッテルを外す
人と人とのコミュニケーションというと、「会話」という言語情報の送受信がイメージしやすいかもしれません。
この「会話=コミュニケーション」というイメージが先行してしまうと、こちらの話を理解しにくい人や、発話することが難しい人に対して、「コミュニケーションが難しい人」というレッテルを貼ってしまうことなります。
言い換えれば、「コミュニケーションが難しい人」というレッテルを貼っている支援者こそ「コミュニケーションが難しい人」なのかもしれません。
コミュニケーションに対して「不便さ」を感じている人が目の前にいるのであれば、私たちがその人にとって「便利な存在」になる必要があるでしょう。
「安心を伝えるために話す」という意識を持つことが大切
認知症の人を支援する中で、「(認知症のご本人に)させてもできないから、(支援者が)してしまう」「(認知症のご本人に)言っても分からないから、(支援者は)もう伝えない」といった誤った考えのまま支援してしまうと、結果的にコミュニケーションが不足し、関係性を悪化させてしまうケースは少なくありません。
「(認知症のご本人が)話せないから、(支援者が)話さない」のではなく、「(認知症のご本人が)話せない」ことにより抱える不安感を、少しでも解消するために「(支援者が)話す」という考え方が好ましいケアにつながります。
「フェイス・コミュニケーション」を多用する
コミュニケーションは、いわゆる「言葉(言語)」のみを用いた「言語的コミュニケーション」と、身振り手振り(ジェスチャー)、姿勢、声の大きさ、 トーン、テンポなどを用いた「非言語的コミュニケーション」に大別されます。
認知症の人に対しては、「言語的コミュニケーション」よりも「非言語的コミュニケーション」の方が伝わりやすいため、「非言語的コミュニケーション」を積極的に用いることが勧められます。
非言語的コミュニケーションの中で最も大切に「フェイス・コミュニケーション」を多用するしたい表現は、「表情」です。表情を用いてのコミュニケーションは、会話が難しい人ほど有効です。
人は、言語が違う民族とのコミュニケーションや、言語理解が未発達の乳幼児などと意思疎通を試みる際、相手の表情を伺いながら、相手の気持ちや伝えたいことを理解しようとします。
私たちはこうして、自然と「フェイス・コミュニケーション」を活用しています。言語理解が難しい人ほど、顔の表情に意識を向けると良いでしょう。
「マスク姿」は不安の原因に! 常用化にはご用心!
「マスク姿」は、「フェイス・コミュニケーション」を低下させてしまいます。
マスクを着用してコミュニケーションを図る際には、自分自身が飛沫感染源でない限り、わずかな時間だけでも、顔全体が見えるようにマスクを下げたり、外すように心掛けましょう。
「話し掛ければ良い」というわけではない
中重度認知症の人の場合、言語理解が低下し、会話や単語の理解が難しくなることで、会話中に不安が増大することがあります。
この時期では、会話を多くすることが必ずしも「良い」というわけではありません。
声かけだけであれば、目が合ったときにのみ行い、ご本人が理解できるようなジェスチャーや安心できるような表情を重視してコミュニケーションを行いましょう。
日常生活の場面におけるジェスチャーの練習
中重度認知症の人の場合、言語理解が低下する代わりに、表情や眼差し、口調や声色、動作や姿勢などの立ち振る舞い、その場の雰囲気などの非言語面における感受性が高まります。
ジェスチャーは、「大きく・分かりやすく」が基日常生活の場面におけるジェスチャーの練習本です。
伝える言葉は短くして、短い文章であるからこそ気持ちを込めながらゆっくりと伝え、言語理解が困難な方でも安心できるように行いましょう。
「動作の実況中継、心の実況中継」+「ジェスチャー」=安心
あいさつ、起き上がり、更衣のみならず、食事、歯磨き、トイレ、運動、趣味活動、入浴などさまざまな場面でコミュニケーションが行われます。
私たちは、認知症の人の言語理解能力の有無にかかわらず、動作をゆっくり・ハッキリさせることをイメージして、動作を一つひとつ説明する「動作の実況中継」を心掛けることや、かかわりを持つ中で感じたこと・思ったことを分かりやすく伝える「心の実況中継」を行うことを意識します。
そして、会話の際に用いる単語のジェスチャーや、可・不可のサインを簡単に示し、ご本人が抱える認知症による思考と行動の不便さを解決するように支援していきましょう。
【具体的に学びたい方はこちらから】
■【オンライン】川畑智氏のそうだったのか!なるほど納得!認知症リハ・ケアセミナー
https://www.tsuusho.com/online_dementiareha
【情報提供元】
■認知症ケア最前線vol.61(一部抜粋)
■川畑 智氏(株式会社Re学 代表取締役/理学療法士)
認知症の理解を深め、好ましい認知症ケアの実践につなげていく「ブレインマネージャー」