高次脳機能障害とは、大きく3つに分類された脳機能である、運動機能、知覚機能、高次脳機能のうち、高次脳機能が障がいされた状態をいうことであり、また「目に見えづらい障がい」であることで周囲に理解されにくいです。
高次脳機能障害の中の認知症
認知症とは、「後天的に獲得した知能が、脳の器質的病変によって低下した状態で、持続的で不可逆的な全般的障がい」と定義され、加齢による物忘れや、先天的な知的発達障害とは区別されます。
また、認知症はさまざまな疾患が原因で引き起こされる症状の総称であり、「認知病」ではありません。
加齢による物忘れは、食事をしたことは覚えているけど、何を食べたか思い出せないなど記憶の一部を忘れている状態ですが、認知症による物忘れは、食べたこと自体を覚えていないという記憶のすべてを忘れてしまう状態です。
認知症を呈する疾患は、変性疾患や脳血管疾患、感染症など多種に渡ります。
従来、脳血管性認知症が多く、アルツハイマー型認知症は少ないとされていましたが、平均寿命の延長による高齢化に伴ってアルツハイマー型認知症の発症率が高くなったと言われています。
これら認知症の症状は、物忘れなどの記憶障害や日付、場所などが分からなくなる見当識障害など病気そのものが原因になっている中核症状と中核症状があることによって認知症の人が体感している世界が周囲の状況と違うことで出現する行動・心理症状があります。
中核症状は、すべての認知症の人に認められ、認知症の診断や重症度を判断するときの目安になります。
行動・心理症状は、周囲の不適切な対応や生活環境の変化、認知症に伴う精神症状と行動障害を合わせたもので、徘徊(ひとり歩き)や妄想・不潔行為・異食・暴言・暴力などの行為や状態で「BPSD」といわれています。
■中核症状
(1)記憶障害
短期記憶、長期記憶、エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶
(2)見当識障害
日付、場所、人物などが分からなくなる
(3)失語
聞く、話す、読む、書くことが難しくなる
(4)失行
身体機能に問題はないのに目的の動作ができない
(5)失認
視覚、聴覚、触覚に問題はないのに認識ができない
(6)遂行機能障害
順序立てて物事を考えることが難しい
中核症状は、記憶障害や見当識障害など高次脳機能障害の症状が出現しています。
また認知症は、脳の損傷・障害によって起こり、認知機能に障害が起こっているという点では広く高次脳機能障害の方がとらえやすいです。
しかし、「認知症=高次脳機能障害」ではなく、高次脳機能障害の中に認知症が含まれていると考えられます。
■行動・心理症状
(1)不安・焦燥
落ちつかず、いらいらする(夕方に多くみられる)
(2)抑うつ
気分が落ち込む、意欲低下
(3)妄想
物を盗られたなどの被害妄想が多い
(4)幻覚・錯覚
実際にないものが見えたり聞こえたりする
(5)睡眠障害
途中で目が覚める、昼夜逆転
(6)徘徊(ひとり歩き)
目的なく歩き回る
(7)暴言・暴力
感情の抑制が難しく攻撃的になる
(8)失禁
排泄がうまくいかない
(9)不潔行為
排泄後の処理がうまくいかず、周囲を汚してしまう
(10)収集癖
不要なものを何でも集める
(11)過食・異食
食べたことを忘れ何度も食べる、葉っぱなどを食べる
行動・心理症状は中核症状により周囲の状況を認識することが難しいことに加えて、その人の性格、環境、心理的状況などが作用して起こる精神症状や行動異常が現れます。
しかし、すべての認知症の方に同じように見れるわけではありません。
その人の生活歴、健康状態、性格や心理状態、家族や介助者の対応なども大きく影響してきます。
その人自身を総合的に評価・理解し、どのような心理状態で何をしようとしているのかをしっかりと考えたうえで、不安にならないような対応が大切です。
■高次脳機能障害への対応
高次脳機能障害でのリハビリテーションでは、その人の正確な障害像を理解し把握することがまず第一です。
評価から日常生活に支障が出ていることを中心にリハビリテーションを進めていきます。
障がいの程度によってリハビリテーションは異なりますが、一般的に簡単な課題から開始し、徐々に複雑な課題を行い、日常生活へと結びつけていく方法があります。
高次脳機能障害では、障がいを受けた能力がある一方で、残された能力もあり、専門の病院や施設で正しい診断と評価を受け、リハビリテーションを受けることが重要です。
家族や周囲の人が、対応方法を十分に理解して、その人のQOLが向上するよう協力していきましょう。
■リハビリテーションの例
●記憶障害へのリハビリテーション
病態の把握(自分に記憶障害があり訓練が必要な状態であるということ)から始まり、注意集中力向上のための課題やメモを取るということを習慣づける訓練を行う
●失語症へのリハビリテーション
話す部分に障がいがある場合、程度にもよりますが、物品の呼称から始め、短文から文章へ進める
●遂行機能障害へのリハビリテーション
注意・集中力を向上させる課題から始め、実際の場面を想定して、うまく行動できない部分の助言や適応できないことへの不安を軽減する
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