口腔内の清潔保持は誤嚥性肺炎の予防に!
口腔のセルフケアが難しくなった認知症の方は、口腔環境が悪化しないように介助による清潔保持が重要です。
口腔の清掃は、口腔疾患の予防だけでなく、唾液の分泌や舌・頬の動きを促して口腔機能を保つことにもつながり、誤嚥性肺炎の予防にもなります。
清潔保持の3つの基本
~「受け入れてもらうための工夫」「保湿」「適切な道具」~
口腔内の清潔保持の基本は、
[1]受け入れてもらうための工夫をする
[2]保湿をする
[3]適切な道具で口から汚れを回収する
です。
[1]受け入れてもらうための工夫をする
口腔は非常にプライベートなところです。
本人の心の準備が整う前に触ると、驚いて大きな声を出したり、振り払うなど拒否されることがあります。
まずは相手の受け入れ態勢を整えましょう。
相手の受け入れ態勢を整えるために
目線を合わせてやさしく話しかけ、これから何を行うのか説明をして、相手の受け入れ態勢を整える。
(声かけ例)
「お食事おいしかったですね」
「洗面所で口をきれいにしましょう」
「口を見せていただいても良いですか?」
声を掛けるときはポジティブな表現を使い、「きたない」「汚れ」などの言葉は使わないようにしましょう。
[2]保湿をする
重度認知症になると、主に下記のような理由から口腔内が乾きやすくなります。
それだけでなく口腔のセルフケアやうがいも上手にできません。
口腔内の汚れが乾燥すると、汚れが粘膜や歯にこびりつき、スポンジブラシなどで拭っても簡単には剥がれません。
さらに乾燥した汚れは細菌の温床であり、誤嚥性肺炎のリスクにつながります。まずは保湿剤を使って汚れを柔らかくしてから回収し、仕上げに保湿剤を塗りましょう。
[口腔内が乾きやすくなる理由]
・唾液腺の機能低下
・薬剤の影響
・唇や口の周囲の筋肉のおとろえで口を閉じられない
・覚醒レベルの低下で口が開いてしまう
・会話頻度が極端に低下する
[口腔内を乾きにくくするための保湿方法]
■手順1
ジェルタイプの保湿剤を乾いた汚れに塗り、数分待つ
■手順2
ふやけたら、歯ブラシで汚れをかき出した後、スポンジブラシで汚れを回収する。
スポンジブラシについた汚れはガーゼでぬぐったり、水を入れたコップのなかでスポンジブラシの毛先を洗って、汚れを回収する。
この作業を何度も繰り返し、少しずつ乾燥した汚れを回収する。
粘膜にこびりついた汚れをかき出したとき、汚れを含んだ水分が喉に垂れ込まないようにしましょう。
誤嚥の原因になります。
口腔内の汚れを、口腔外に出すようにケアすることが大事です。
(1)毛先のブラシを洗う
(2)しずくが垂れないように軽く絞る
(3)汚れを回収する
[保湿剤を塗布して保護する(汚れを取った後の粘膜は弱い状態になっているため)]
さまざまなフレイバーの保湿剤があるため、本人の好みで選び、口腔ケアの仕上げや寝る前に使うとよい。
また、乾燥しやすい方は口角も切れやすいのでワセリンなどで保護する。
[3]適切な道具で口から汚れを回収する
道具は適切に使い分けましょう。
歯が1本でも残っているなら、歯ブラシで細菌が作ったネバネバとした汚れをかき取ることが大事です。
[道具の使い分け]
道具の選択は、歯科衛生士に口腔をアセスメントしてもらい、アドバイスをもらうと良いでしょう。
また、「硬いもの」「金属製のもの」は介護用には向いていません。
歯
・歯ブラシ
歯肉が腫れている人には毛先が丸い「やわらかめ」タイプを使うと歯肉を傷つけるリスクが低くなります。
1ヶ月くらいで交換しましょう。
歯ぐきの粘膜
・粘膜用のスポンジブラシ
・ガーゼ
硬さや大きさはご利用者の状態に合わせて選びましょう。
使用後は捨てます。
舌
・舌ブラシ
しなやかで柔らかく、舌の奥まで届く長い湾曲した柄のものが良いでしょう。
現場でよくある 困った場面への対処
■口腔ケアの際に力が入ってしまう方
無理にこじ開けると、痛みを誘発して拒否につながるため、開口のための工夫をする。
■介助者の指を噛んでしまう方
指を歯の外側に置く(指を歯の上に置かない)。
■うがいの水を飲みこんでしまう方
認知症が進行すると、うがいや吐き出しが難しくなる。
声を掛けても水を飲んでしまう場合は、職員が一緒に行い、まねてもらうとうまくいくことがある。
それでも難しい場合は、スポンジブラシで汚れをかき出す。
清潔保持に無関心な方の事例
声を掛けても、口の中をきれいにしないAさん。
食事中に痛そうな顔をしていたので、口の中を確認すると…
Aさんは自分の歯が多く残っていますが、口腔ケアにあまり興味がないようで、声を掛けると「やる」とは言うものの自分では行いません。
たまに歯ブラシを持つことはありますが、数回口に入れただけでやめてしまいます。
時々うがいはしているようです。
食事のときにAさんが痛そうな表情をして酢の物を残していたため、口の中を見ると頬に傷がありました。
口腔内の傷は、虫歯でとがった歯が原因だった
口腔内の傷は、虫歯でとがった歯で頬の粘膜を噛んだことが原因のようでした。
治療を受け、傷が治る目途が立ったところで、今後の口腔ケアについて考えることになりました。
食後は必ず静かな場所の洗面所に誘導…職員のまねをしてもらうことで、口腔ケアを促す
Aさんが口腔ケアに集中できるよう、食後は必ず比較的静かな場所の洗面所に誘導しました。
歯ブラシを使ってAさんなりのやり方でセルフケアした後、職員が仕上げ磨きをします。仕上げ磨きの前には、Aさんとしっかり目を合わせ、「今度は仕上げ磨きです。痛みが良くなるようにきれいにしましょう」と説明し、一緒に大きく口を開け、まねしてもらうことで開口を促しました。
頬に手を添えて声を掛けながら行います。
同じやり方を続けたところ、Aさんは介助の口腔ケアに協力してくれるようになりました。
[ポイント]
集中しやすい環境を整える
テレビが点いている部屋や大勢の人が活動している場所など、騒がしい環境では本人の気が散って集中できないため、口腔清掃は静かな洗面所に誘導して、環境を整えましょう。
【情報提供元】
新人指導者・新人~中堅介護職・看護職が知っておきたい尊厳保持と自立支援のケアで行う基本技術セミナー
https://tsuusho.com/basicskill