送迎車が、飛び出してきた自転車と軽く接触!
デイに戻った運転手がひき逃げで逮捕!
デイサービスの職員Zさんは、有名企業を長年勤め上げ、定年退職後に介護職員初任者研修の資格を取り、送迎業務の嘱託社員として採用されました。
就職して1ヶ月後のある日、利用者を送迎後、デイサービスに戻る途中で、自転車に乗った小学生が一時停止を無視して道路に飛び出してきたため、送迎車と軽く接触しました。
興奮して大声で「一時停止しなきゃダメじゃないか!」と強く叱ったZさんに対し、転倒した小学生は「ごめんなさい」と謝りました。
そのままデイサービスに戻ったZさんは、「自転車に乗った子どもが道路に飛び出してきた」と運転日誌に書きました。
ところが、転倒した小学生は自宅に戻り、母親に「車にぶつかって自転車が壊れた」と訴えました。
足を擦りむいて、けがをしています。
子どもは「“デイサービス”という字は読めたが、ほかは分からない」と言い、母親は警察に被害届を出しました。
警察ではひき逃げ事件として周辺のデイサービスを捜索し、傷のある車両が発見され、Zさんはひき逃げの疑いで逮捕されてしまいました。
警察から事情聴取を受けた主任のミチコさんは「長年、有名企業を勤め上げ、真面目で協調性があり、ゴールド免許だったので採用した。まさか、ひき逃げをするとは思わなかった」と話しました。
道路交通法の「事故発生時の運転者の義務」を知らなかった
本事例のトラブルの直接的な原因は、運転手が交通事故発生時の対処を誤ったことです。
一時停止を無視したせいとはいえ、転倒した小学生を放置したまま立ち去ったことは、道路交通法に違反する行為です。
相手がけがをしていれば、救急車を呼び警察に届け出なければならないことは、自動車運転者の常識です。
道路交通法では、交通事故を「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」と定義しており、同法72条では交通事故発生時の自動車運転者の義務を「負傷者の救護義務」「警察への報告義務」と定めています。
本事例は交通事故に該当しますから、「負傷者の救護義務」と「警察への報告義務」が発生するのです。
特に救護義務違反は、いわゆる「ひき逃げ」に該当する罪の重い行為ですから、逮捕されても仕方ありません。
ちなみに、交通事故発生時の運転者の義務違反には、行政処分だけでなく刑事罰もあります。
Zさんも免許の点数や行政処分だけでは済まされないでしょう。
交通事故発生時の運転者の義務違反
・負傷者の救護義務違反 10年以下の懲役または100万円以下の罰金
・警察への報告義務違反 3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金
運転経験が安全運転能力につながる
では、なぜZさんは、このような初歩的なミスを犯したのでしょうか?
後日判明したことですが、Zさんは前職では経理・財務畑一筋で、会社の業務用車の運転経験がほとんどありませんでした。
仕事で車を運転する必要がない人は、運転経験が少ない場合もあり、Zさんは適切な判断ができなかったのでしょう。
本事例のトラブルの原因の一つは、デイサービスがZさんの運転経験を確認せず、運転手として採用したことです。
事故発生時の対応などを含む広い意味での安全運転能力は、自動車の運転経験に比例します。
日常的に車を運転する人は事故に遭遇することもあるでしょうから、経験から対処の方法を学びます。
介護の資格を持ち、協調性があっても、安全運転能力が低い人材を運転手として採用してはいけません。
特に大きな送迎車は、車体が大きく内輪差もあり、乗用車の運転に慣れている人でさえ危険が伴います。
安全運転能力は、今までの運転経験に左右されますから、採用する際は、運転歴や事故の経験なども厳しくチェックする必要があります。
【情報提供元】
月刊デイ
【トラブル対応を実例から学ぶ】